古い校舎が見える桜の木の下で
「好きだ」

そうつぶやき口づけた。
彼女から顔を離すと、びっくりした顔をしていた。

「どうして…」

声にならないような声を口にし、俺を見上げた。
佐々木は恥ずかしさのせいなのか、
それとも俺の行動が許せないのか
両手で俺の胸を突き放すと走っていった。
我慢ができなかったとはいえ、性急すぎたのだろうか。
「チクショウ!」という思いがこみ上げた。

いつもはお互いに会ったあと、
【今日はありがとね】とか【無事に家についたよ】とか
メッセージをくれる佐々木だが、
我慢しきれなかった俺のせいでそういうメッセージも来なかった。

相手を逆撫でせず、このままにすべきかどうか迷ったが、
俺が真剣であることを伝えたかった。
【お前を傷つけたのなら謝るが、
軽はずみな思いでお前にキスはしていない。お前が好きだ。】
とメッセージを送る。しかし、返信はなかった。

佐々木と気まずい別れ方をした翌日、採用試験の結果が届いた。
無事に合格した。
自分の思い描いていた方向へ足を進めることができたことは嬉しいが、
佐々木のことが気にかかっていた。
採用が決まれば、具体的な採用先が決まるまで、
一旦、長野の祖母のところにいるつもりだった。
アルバイトも今月いっぱいのため、
12月中旬にはアパートを引き払うつもりでいた。
本当なら佐々木には全てを知ってほしかった。

その上で、告白して彼女も俺のことを男として見ていてくれたなら、
結婚を前提につきあってほしいと伝えたかった。
ただ、今の状況ではそこまで伝えられない。

【採用試験、受かったよ。お守りのおかげだ。ありがとう。】

悩んだ末、シンプルなメッセージだけを送った。
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