古い校舎が見える桜の木の下で
3.突然のキス~side Ayumu
浩太に急にキスをされた。

あの日、桜の木の下で再会してから彼との距離は縮まった。
正直、初恋の相手だと言われ、嫌な気はしない。
しかも、10年ぶりに会った彼は
私には不釣り合いなほどのイケメン。

本人から話は聞いていないが、
彼の親友、祐介くんによると
浩太はJ2のチームに所属していただけでなく、
U-23の代表候補にも名前が挙がっていたほどの
実力者だったのだという。
そういう輝かしい過去の実績を自慢することなく、
彼は今、自分がすべきことに向かっている。
彼の容姿もさることながら、そのひたむきさに私は惹かれていた。
そして、おばあちゃん思いの優しいところも。

再会して、はじめのうちは懐かしさの方が勝っていた。
会っていなかった期間を感じさせないくらい、
あの頃と同じようなテンポで話ができることが楽しかった。
やがて、私の中でも浩太はただの同級生ではなく、
一人の男性としての存在が大きくなっていった。

それなのに、あのとき、「私も…」ということばではなく、
「どうして…」と言ってしまったのだろう。
パーティー帰りでほろよい気分だったから、
自分自身認めたくなかったのかもしれない。
浩太から離れ、夢中で走った。

家についても、茫然としていた。
頭に浮かぶのは、私のことを「好きだ」と言ってくれたときの
せつなくなるような浩太の顔。
そして、そっと触れ合った唇の感触。
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