ひとりじゃないよ

侑真



「お兄ちゃーんっ」

ガチャ
ドタドタ…

「お兄ちゃん、朝だよー」

ツンツン

その高い幼い声と、お腹をつつかれて、

「…っ」

「あ、起きたー。おはようっ」

いってぇ…。
つつかれただけで痛いとか…。

「ままーっ!ゆい、お兄ちゃん起こしてあげたよーっ」

「ありがとー、ゆい」

ドタドタドタ

来たとき同様、妹は足音を響かせて走っていった。

「はぁ…」

平日の朝は嫌いだ。


下のリビングへ降りていくと、もう母と妹は朝食を食べていた。

「おはよ」
「おはよう、早く食べちゃいなさい」

妹のゆいは朝食に夢中だ。
…ったく太るぞ。

「そう言えば侑真」
「なに?」
「昨日、転んだ?」

「…なんで?」
「服に泥ついてたでしょ」

やばい。ばれたか…?
いやでも、『転んだ?』だもんな。
よし…。

「ちょっと校庭で転んでさ」

内心の動揺なんか表に出さずに、笑って言う。

「そう、気を付けなさいね」

そうすれば誰だって気付かない。
_それが、“演技”だと。

「ごちそうさま。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい!」
「気をつけてね」

「いってきます」

おれは地獄の学校へと、ひとりで向かう。
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