興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−

「あっ、おい、藍原。ちょっと待て、まだ…」

これ以上は一緒に居られない。パンプスといえども、ローヒールのストラップの物。思いっきり走った。
持っていたパスを取り出した。改札機に翳し、通り抜けた。

えっと、…どっちに…。乗りなれていない駅は行き先が解らない。じっくり確認してる余裕はない。
取り敢えず発車案内をしている電車に乗った。
ドアが直ぐ閉まって発車した。

課長は駅の構内にいた。私のようにパスは持っていない。直ぐには追って来られない。……はぁ。
課長…、ごめんなさい。……出発進行です。
そのまま居たら、自分がおかしな事になりそうだったので帰ります。

だって、私…歩いて来た道を逆戻りしたくなりそうだったから。
話を続けたら、きっと、これを最後に…、思いを打ち明けて…無理だと解って居ても、帰りたくないと、課長を困らせてしまいそうだったから。それでこの思いを完全に終わらせられるならと。
受け入れられなくてもなんて…なんて邪な…。はぁ…。駄目だ…。早く吹っ切らなきゃ。

明日からも上司と部下の関係は続くというのに…、欲しくない告白で、こんな事になるなんて…。
危なかった。一人で盛り上がるところだった。結婚しようかという人が居るのに……迷惑にしかならない…。

走る電車のドアから外を眺めていて漸く進行先の確認をした。
…フ。どうやら一度下りた方が良さそうだ。このまま乗車していても家が遠くなるだけみたい。

…はぁ。もう、何も解らない。浅ましい自分も嫌。
とにかく家までは泣かない。帰り着くまでは我慢する。
そうだ、違う事を考えたらいいのよ。コンビニに寄って、また大量にスイーツを買って帰ろう。

降りた駅…反対側で来た電車に乗った。これで本当に帰れる。
乗り込み、ドアの前に立った。
バーにもたれるようにしていた。気を張って居れば大丈夫。
暗い。酷い顔…。そう思って見ている自分は別の自分のような気がした。

……ぁ、…あれは…そういう事だったんだ。
私が真っ直ぐを選んでいたら、きっとどこかに停車するなりして、今された話をしていたのかも知れない。
…課長の部屋でって訳にはいかない。駐車場に停めた車の中でって訳にもいかない…。
家に着いてしまったから…、歩きながら…帰る駅に向かいながらしか出来ない…絶妙な場所の選択だ…。
私はこうして逃げ帰ってしまってる。
やっぱり…上手く隠すことはできない。ドアのガラスに映る顔は、いつ泣き出しても可笑しくない顔をしていた。
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