bug!
ゾウムシ
そうやって、私たちは知り合った。

彼は最初からずっと誤解をしていて、私があれから何度も虫は嫌いだと言っているのに、それを照れ隠しだと信じて疑わない。

「桜子さん!」

キャンパス内を歩いていると、どこからともなく走りよってきては、私に虫の話をするから困る。

それは講義で聞いた話だったり、本で得た知識だったり、観察していて気づいたことだったり。

虫のことについて話し出すと止まらなくて、私がどんなに適当な相槌をうっていても平気で一時間でも二時間でも話すから困る。

たまに気まぐれに。

本当にまれにだけど、話を聞いている途中にふと感じた疑問を晴にしてみると、リュックサックから大事そうに取り出した昆虫図鑑を見せながら、丁寧に説明してくるから困る。

そこまで専門的な回答なんて求めていないのに、必死で教えてくれるから困る。

学食にいても。
通学途中も。
麻衣や他の友人とおしゃべりをしていても。

「桜子さん!」

私を見つけると、しっぽをぶんぶん振りまわす柴犬みたいに嬉しそうに走ってくるから困る。

困る。
困る。
私は困っている。

そんな彼に。

困る。
困る。
私は困っている。

そんな彼をきっぱりと拒絶できない自分自身に。


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