夢を忘れた眠り姫
節約マニアというものは、何か自分を充分に納得させられる理由がないと、たとえ数十円だとしても余計なお金を使ってしまったりしたら、その後とんでもない罪悪感にかられるものなのだ。

また、トータルで8時間である事には変わりないのだけれど、当番の日は午後の勤務が通常より1時間短くなるので、定時までがとても早く感じ、お得な気分が味わえるので、実は私はその順番が回って来るのが待ち遠しかったりする。

他の人も同じ考えらしく、そのシステムに不満を漏らした人は今までほとんどいないらしい。

本日の電話当番に任命されているのは確か…。

そう考えつつ、数メートル離れた、左斜め前方のデスクにチラリと視線を向けると、手は動かしながらも自分の左隣の男性と会話を交わしている件の人物の姿が見て取れた。


「うわ~、そりゃ大変だなぁ」


その存在を意識した事により、それまではスルーしていた話の内容が頭に入って来る。


「じゃあ来月からは、13万円にはねあがっちまうんだ」


快活で明瞭な口調で問いかける、私より5年先輩の男性社員、青柳孝一さん。


「急な転勤ですから、仕方ないんですけどね…」


それに対して訥々と、若干覇気のない声で返答するのは3年先輩の貴志真守さん。

青柳さんは黒髪短髪で背はさほど高くないけどガッチリしていて筋肉質で、見るからに体育会系。
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