夢を忘れた眠り姫
一方貴志さんは、まっ黒の頭髪を右わけで七三にセットし、黒縁眼鏡をかけ、長身細身でヒョロヒョロとした体躯の、『これぞまさしく草食系』といった風貌の人。

おそらくプライベートでは交わる事がなかったであろう二人だけど、当然、仕事をする上ではどんなキャラクターの人とでも分け隔てなく満遍なくコミュニケーションを取らなくてはならない。

また、席が隣というのも大きいのだろうけど、青柳さん自身は躊躇せず気負いなく、貴志さんにガンガン話しかけているので、彼の方もまさかそれを無視する訳にもいかないみたいで、微妙な温度差はありつつも、休憩時には結構密におしゃべりしている場面を目撃する。


「同時に追い出されないだけマシですけどね。物件によっては、最初に登録のあった人物以外は認めてくれない場合もあるみたいで…」

「いやでも、一人でその家賃を負担するのはかなり苦しいだろ?所帯持ちならまだしも、独身なのに住居にそこまで金をかけるってのはちょっとなぁ」

「それでも、その辺の相場からいったら断然お得なんですけどね。山手線沿線で駅まで徒歩7分、そして間取りは2LDKですから」

「ああ、そりゃ確かにそうなんだろうけど…。今までは6万5千円だったからやっていけたんだろ?」

「あ、いや。二人暮らしといってもきっちり折半だった訳じゃないんですよ。片方の部屋は7畳、もう片方が5畳半で、しかも日当たり具合にも差があって」
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