夢を忘れた眠り姫
そしていつもは整髪料できっちり七三にセットしてある髪はナチュラルな状態で、あちこち寝癖がついている。

しかしそれが上手いこと無造作ヘアーチックになっていて、何だかすこぶるオシャレ。

そしてパジャマ代わりなのであろう、ピタッとタイトな黒のスウェットの上下はそのスタイルの良さを際立たせていて、まるでルームウェアのカタログのモデルさんみたいだった。


「…何ガン見してんだ?」


訝しげな顔をしながら貴志さんはキッチンのカウンター内へと歩を進めた。


「あ、あなたは、貴志真守さんですよね!?」


そこで我に返った私は反射的に問いかけていた。


「他に誰がいるっていうんだ?」

「だ、だって、ビジュアルが5才以上は確実に若返ってますし、それに、立ち居振舞いや言葉使いが…」


気だるげに髪をかきあげながら質問返しをして来た彼に物申す。


「と、とにかく、キャラがいつもと全然違っていますが!?」

「…俺、朝は弱いから…」


答えになっているのかいないのか、よく分からないことをポツリと呟き、貴志さんは続けた。


「っていうか、君も人の事いえねーだろ」

「え?」

「何だその弛みまくったダサダサの格好は」


そこで私はハッとした。


しまった。

そういえばまだ顔面に化粧を施していなかった。

いつも朝ごはんを食べて歯を磨いてからメイクアップしてたから。
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