ヘタレな野獣
料金を精算して、彼は私と共に降り立った。

「大丈夫です、歩けますから・・・」
「いいから掴まって」

私は彼に体を支えて貰いながら、自室の前にやって来た。

「っ・・・」

鍵を鞄から取り出そうとしたけど、やはり腕も打っていた、少し痛みが走り、動きが止まる。

「冬子さん、大丈夫、ですか?
ちょっと失礼しますね?」

私を気遣いながら、さっき私が手を入れようとした鞄のポケットに、ヨレヨレ君が手を入れて、部屋の鍵を取り出してくれた。

「開けますよ?・・・」

私に一言断ってから、シリンダーに鍵を差し込む。

カチャン、

ドアを開け、左手を広げて、早く入れと言わんばかりのデスチャーに、私は少し戸惑いながらも、鉛のように重くなった体を、彼の指す方へ滑り込ませた。

「今日はホント、色々ありがとうございました」

体一つが通る位、ドアを開けたまま、心配そうに私を見ている彼にそう言った。


「何かあれば、連絡下さい、・・・、いいですね?必ずですよ?」


部屋にも上がらず、玄関先でヨレヨレ君はそんな言葉を残して、帰っていった。


正直、あんな事があった後だから、たとえ相手がヨレヨレ君であっても、閉鎖的な四角い箱の中、二人きりはキツい、そう思っていた。


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