ヘタレな野獣
営業のノウハウなど無知を決め込み、でも、どのタイミングでどう動くか、私には営業の段取りをそのまま行動に移している、言わば王道をいっているように思えていた。


「・・・今日は金曜ですね、どうですか、もう一軒、行きますか?」

私の方に歩み寄り、小首を傾げて私の返答を待つヨレヨレ君。

ドキドキッ…

ダメだ、また心臓が暴れ出す。

こんな状態でヨレヨレ君と一緒に居たら・・・
結構ヤバいかも。

「でも……」

ジッと彼に見つめられ、私はその先の言葉を言う事が出来なかった。

「・・・じゃあ、僕んちでっていうのは、アリですか?」



私とヨレヨレ君のマンションは歩いて10分かからない程の距離にある。



駅から歩いて程なくヨレヨレ君マンション前。

「・・・じゃ、私はこれで・・・」

そう言って自宅マンションに向かう、筈だったのに!
ガシッと腕を掴まれ、あれよあれよと拉致られた。

彼の部屋は一階にあるから、エレベーターを待つ訳でもなく、あっという間に部屋へと到着。

「あの、雨宮、くん?」
「はい?何か問題でも?」

鍵を開けながら、私を見て小首を傾げる。

ドキッ・・・

三十路の、それも180センチを超える長身の男が小首を傾げる。

そんな仕草にときめく女がここに一人・・・

私の背中に手を添えて、開けたドアから、中に入るよう誘う。

「どうぞ?少し散らかってますけど、気にしないで下さい」
「そうじゃなくて!」
「しぃっ!あまり大きな声、出さないで下さい、ほら、近所迷惑になりますから、早く入って下さい」

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