ヘタレな野獣
深まる謎
「送っていきますよ、」

そう言って私を解放したヨレヨレ君は、シワにならないよう脱がせてハンガーにかけてくれていたジャケットを、ソッと私の肩にかけてくれた。


「ねぇ、答えてよ、私達、一体いつどこで知り合ったの?」

うやむやになんて出来ない。

「クスクスッ、さぁあ、どこでしょうか」


なんて、口元に手を当てて、笑ってるし・・・

「ちょっ、茶化さないで、私は真面目に聞いてるんだけど!」


そんなヨレヨレ君の態度にイラついて、少し大きな声をあげた。

「冬子さん、まだ朝の5時ですよ、そんなに大声出さないで下さいよ」


なんなのよ、散々焦らして核心に迫ろうとしたら何よその態度!

「答えなさいよ、誤魔化さないで、答えて!」

私は更に大声を出す。

「その内否が応でも知る事になります。
少し位、謎がある方が神秘的でドキドキしませんか?これも、か・け・ひ・きの一つ、冬子さん、楽しみましょう」

私に顔を寄せ、囁くように呟く。


その甘い声に私は軽い目眩を覚えた。

送らなくていいと言う私に、この辺り、最近早朝に不審者が現れる、そんな回覧が回ってきていたらしく、聞く耳持たないと言った風に、結局、自宅まで送って貰った。


私が、部屋に入るのを確認した彼は、爽やかな笑顔を残して帰っていった。


部屋に入り、鞄をベッドに放り投げ、自身も体を投げ出す。



ふぅっと大きく息を吐く。

おでこに両手を当て、目を閉じる。

「あまみや、たける・・・」

ヨレヨレ君の名前を口にしてみても、何も変わらない。

頭のどこにも彼の記憶は無い。

いつ?
どこで?

いくら考えてもさっぱりだった。

でも彼は私を知っていると言った。

誕生日が一緒なのは、単なる偶然であろう、しかし、自宅マンションがこんなに近いというのは、果たして偶然なのだろうか。


3年間、私を思い続けてきたと彼は言った。

今回の引き抜きは・・・

考え出したら、何もかもが仕組まれていたのではとさえ、思えてしまう。


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