雫に溺れて甘く香る
そりゃー素直な性格ならいいな、とは思うけど、なかなかそうじゃないからいつも困るわけで。

「髪質ね、髪質。私はもう少し癖毛の方が良かったですよ」

「癖毛はセットが面倒ですよ?」

そう言われて篠原さんの髪を見る。

思えば篠原さんは癖が強そう?
いつもあちこち毛先がハネハネしてるけどお洒落に見える。

続木さんは癖は少ないよね。
でも、たまにワックスでアレンジして遊んでるのは知ってる。

中野さんは……ツンツンしてる。


「工藤さんはストレートで触り心地が良さそうだし、綺麗ですよね」

「そう? たまに枝毛も見つけちゃうし、けっこう見た目より痛んでるんですよ~」

「でも、女の人の髪って柔らかくて好きですけ……」

篠原さんが、私の頭上を見ながらパクンと口を閉じた。

なんだろう? そう思って振り返っても何もいないけど。

楽しそうなカップルが腕を組みながら、続木さんに席に案内されているのが見えるだけ。

コトンと小さな音がして、篠原さんが私の前にグラスを置いた。


「それで、紅葉は楽しめました?」

ポツリと呟いた篠原さんに、目を丸くして振り向く。

「紅葉……ですか?」

「続木と行かない?」

先週末に……山には行ったけれど。

どっちかというと、あちこち緑で赤くはなかった。


「紅葉……ありましたかね」

考えながら呟き返すと、篠原さんは微かに苦笑しながら、新たにシェーカーを振り始める。

「……苦労するねぇ。君達」

「……苦労?」

何の事でしょうかね?
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