雫に溺れて甘く香る
うーん。やばいな、これ。
ちょっと深みにはまってない?

あまりにも不毛過ぎて笑えてくるんだけど。

「篠原さん。何か気づいたー?」

声をかけると、篠原さんはグラスを棚にしまい、ゆっくりと顔を上げる。

「工藤さんの見ている先には気がついていました」

「そんなにバレバレかな?」

「……いえ。あいつなら、ほとんど何も気がついてないんじゃないかな。中野もほとんど厨房の中だし。僕はカウンターにいるから、気がついただけ」

ああ。そういうこと。

篠原さんは、めちゃくちゃ忙しい時以外はカウンターの中にいるし、続木さんがフロアにいないことは……たまにしかない。

私はいつもカウンターに座っているし……。

そりゃーカウンターから、フロアを見ていたら目立つよね。めちゃめちゃ振り向いてるじゃん、私。

ばっかだなー。


「今後は気を付ける。篠原さん。考えすぎってことにしておいて」

グラスの水を一口飲むと、篠原さんの表情が微かに変わった。

困ったように。

「俺が動いたら、単なる余計なお世話だからしないけど。いいの?」

「いいのいいの。柄じゃないし。だいたいそんな体力ないよ。こっちは仕事で大変だし」

そんな事を言って、合コンに参加してる訳なんだけどさ。

彼女持ちに熱を上げるよりは、気分的に楽な気がするし。

いい出会いがあるかはともかく。

「……そう」

小さく呟いて、篠原さんは肩を竦めた。
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