雫に溺れて甘く香る
二人で並んでビルを出て、少し肌寒くなってきた空気に胸の前で腕を組む。

風はないけど、ちょっぴり寒いかな。そう思いながら歩き始めた。

「近くにいる友達っていいねー?」

「……そう言えば、お前は友達少なそうだな」

……悪かったね。

「実家に帰ったらいるよ。私の友達って地元に残る子が多くて。こっちに来てた同級生も結婚したりして会う機会が少ないし、同期とかで集まると仕事の愚痴しか出てこないし、課がバラバラ過ぎてそもそも集まれないし、営業には男子が多いし」

「愚痴か?」

その通りだよ! そこは確認しないでよ!

「寂しいか?」

「うーん。全く連絡取っていないってわけでもないよ。ただ、やっぱり面と向かって話すのと、メールなんかでやり取りするのと、ちょっと違うじゃない?」

「……だな。俺は会える時に会えればいい」

ふーん。

そうして、無言で私を見下ろしていた続木さんと目が合った。

「無理はしなくてもいいぞ」

「無理? ……って何が?」

彼の言葉が唐突すぎてわけがわからないのはいつもの事だけど“無理しなくていい”は、たぶん心配ワードという事はわかる。

「けっこう遅くまで店にいるだろ」

「私……別に無理してるわけじゃないけど?」

見つめ合うと、夜の暗がりの中でもゆらゆらと迷ったような視線に眉を寄せる。
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