雫に溺れて甘く香る
見えたのは若い男女のグループ。

酔っぱらっているのか、はしゃぐようにじゃれている男の子たちもいるけれど、その中の一人の女の子が驚いたような表情を浮かべて私たちを見ている。

……どうしよう、見た事があるかも。
見た事って言うか、確実に見てるよね。

ゆるふわに巻いた髪。黒のロングパーカーに可愛らしいチュニックワンピ。
今時の流行りはわからないけど、間違いなくあれは血色メイク。ぱっちりおめめがお人形さんみたい。

可愛い可愛いその子は……続木さんの元彼女。


黙って見ていた私の目を塞ぎ、続木さんは私の頭に顎を乗せて……ボソリと呟いた。

「タイミング悪い……」

「それはどうなの? と言うか気まずくない?」

「……わかってて言ってるのか?」

「見てたから」


貴方が優しく微笑むのも、貴方が彼女の髪をくしゃくしゃにしたのも。


何を思ったのか、続木さんは目隠しを外して、私を向きなおさせる。

彼を見上げると、珍しく目を丸くしていた。


「見てたのか?」


見ていたよ。

私にとっては見ず知らずの彼女……ではなく、目の前に“彼女”が居たのに貴方に手を出した。

結果としては、私は彼女から続木さんを奪った女だ。

話したことはないけれど、それなら良いのかと聞かれれば、そうじゃないだろうけれど。

彼女の存在を知らないで、その結果奪ってしまうのと、彼女の顔を知っていながら奪うのと……どちらも罪深いけれど、私のやったことはより罪が重い。

……それでも私は貴方に触れかった。
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