雫に溺れて甘く香る
「まぁ、工藤さんはお客様じゃないし」

「そう? 私は今日はちゃんと支払うよ?」

「あー……続木が嫌がるかなぁ。工藤さんに給料もらってるみたいで嫌だって言っていたから」

……なるほど。この間の“変な気分になる”発言はそういうこと。


「続木さんには通訳が必要だよね」

「うーん。あいつが素直じゃないのは昔からだから。案外、工藤さんはいい線いってると思うよ? ちゃんと向き合ってくれてるっていうのを、続木もわかってるみたいだし」

でも、続木さんは自分の欲望に、とても素直だと思うよ。

どこかしらけた気分でいたら、出来上がったグラスを無言でカウンターに乗せた。

それを続木さんが無言でさらって、スタスタ離れていく。

「あはは。ほんと大変だ」

あの男め、一瞬も目を合わせなかったよ。

「お客様じゃ無いって言うなら、私も手伝おうか?」

「あ。遠慮します。続木が仕事にならなくなるから」

篠原さんが伝票を確認して、次のドリンクに取りかかる。


それってどんな意味なんだろうか。私がドジをするとか、そういうこと?

篠原さんも失礼な男だよね。

ブツブツ言っていたら、背後から頭をグシャグシャにされた。

ぎょっとして振り返ると、続木さんの後ろ姿が通りすぎるところだ。


構い方が、子供に対するそれと似てる気がするんだけど。
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