雫に溺れて甘く香る
人の恋路
*****



月が変わると忙しいのは確かだけど、その毎日はいつもと変わらない。

平凡にすごそうと思えばそれなりに時間は経っていくものだと思う。

そんなに代わり映えもしない時間をすごして定時で上がろうとしたら、同期の事務の原さんに捕まった。


「工藤さん。暇? 暇だよね?」

「ちょっと、どーして暇認定されなきゃならないの」

「だって、最近は週末残業してるじゃない! つまり、特定の男性はいないよね?」

仕事があれば残るでしょうが。

ちょっと一、二回それが続いたからってどーして暇認定に繋がるの。


しかも……特定の男性ねぇ?


考えながら、人の腕を掴んで離さない彼女を見つめた。

「……えー。もしかして飲み会? 女子会?」

「飲み会!」

つまりは合コンのお誘い。

「パス。飲み会にビジネス丸出しのスーツなんて違和感ありまくりでしょうが」

「そこに居てくれるだけでいいの! サクラになってくれれば!」


……サクラですか?


堂々と言い放った原さんに、思わずポカンとした。

「実は気になっている人がいるんだけど、やっとセッティング出来たと思ったら、二人もドタキャンされて」

「……相手は何してる人~?」

「え……と、多種多様」

徐々に視線を逸らしていく彼女に吹き出した。

多種多様……ねぇ。そりゃ集まりにくいわな。ある程度のステイタスを求める人が多いから。


「いいよ。気合い入れなくてもいいんなら」

そう言うと、彼女の表情がぱあっと明るく輝く。
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