雫に溺れて甘く香る
そして気がつけば、何だか見覚えのあるような場所にいた。

誰もいない清潔そうなロビー。部屋の内装を写したパネル。


……話をしたいんじゃなかったの?


そのひとつを適当に選んだ続木さんに呆れたら、気がつかれて無言で見つめ合った。

「何を考えてるの?」

「いろいろと」

まぁ……いいけどね。

でも、所詮はそういうことがしたいだけなわけ?

そう思うと何だか……ちょっとショックかな。


溜め息をついて、選んだ部屋に入ると、バックをソファに置き、ジャケットを脱いでクローゼットにかける。

それから大きなベッドに座って、彼を見上げた。

「話って何?」

続木さんは無言で近づいてくると、するりと髪を手にとって、それを指に巻き付けて弄ぶ。

「後で。その前に、ちょっと確かめさせろ」

何を? 聞こうとした言葉は、重なった唇によって塞がれた。

そのままベッドに倒されて目を瞑る。


胸が苦しい……。

だけど、考えないようにした。









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