あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。

6



営業部のフロアに戻ると、矢田部長が青ざめた顔で俺と綾音を呼び出した。

きっと、綾音の異動の件だ……!
矢田部長は綾音の妊娠を知っているし、休暇が明けてから、異動する件について承諾も得た。

小会議室に呼び出された俺たち。
綾音は何のことか分からないようで、そわそわしている。

「……大変なことになった」

矢田部長は妊婦の綾音に配慮して、椅子に座らせた。綾音の隣に俺、向かい側に部長が座る。

部長は開口一番、そう言った。

「……何ですか」

綾音が震える声で尋ねる。
俺と矢田部長の表情からとんでもないことが起こったと分かったのだろう。

「中田さん。君に人事のほうから辞令が出た」

「……辞令?」

仕事のミスかトラブルだと思っていたらしい綾音は予想外の答えに眉根を寄せる。

「来週から総務部に異動だそうだ」

「どうして!?私、ミスでもしましたか!?」

珍しく声を荒げた綾音が思わず立ち上がるので、俺が腕を引っ張り、座らせる。

「先ほど吉岡さんに聞きました。恐らく彼女が絡んでいると思われます」

俺の言葉に部長も苦虫を噛み潰した顔で、頷いた。

「社長が直々に人事に口を挟んだらしい。それができるのは、一人娘である吉岡さんだけだろうな」

「そんな……」

産休まであと2ヶ月。
入社してから、ずっと所属している営業部のフロアで過ごす時間を、綾音は1日1日、噛みしめて仕事していた。

なのに、こんな人事など、ひどすぎる。

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