あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
4階。
そこはマーケティング部があるフロアだった。
慌ただしそうに歩く人たちの間を縫って、大急ぎで大会議室に向かう。
何人かの人とぶつかりそうになる度に、すみませんと謝りながら、先を急いだ。
「来たか。井上」
大会議室前の廊下で、松山さんが眉間に皺を寄せたまま、腕を組んで立っていた。
その隣には同じような表情の矢田部長もいる。
資料などを手に持っているから、恐らく会議のあとなのだろう。
「……綾音は?」
綾音と吉岡さんの姿が見えず、辺りを見渡す。
「そこの休憩室。いつからか知らないが、俺が見たときから、ずっと睨み合ってる」
大会議室の前は曲がり角がある。
その角を曲がれば、エレベーターホールがあり、その奥には休憩室として、自販機とベンチが一つ置いている。
俺も曲がり角からそっと覗くと確かに、自販機前には女が二人。
俺たちに背を向けて立っているのは、吉岡さんだ。
その向こうには、背の低い女。
顔は隠れて見えないが、服装からして、綾音だと分かる。