熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
馬の後ろ足の役だからセリフもないし、顔出しもない。演技といったら、“前足の役”の人の遅れないように、後ろからついていくことくらい。


所詮こんなもんだ……。


あたしだって、まさかみさきちゃんみたいに、お姫様の役がやれるとは思っていなかったよ。…ってか、どーせ、みさきちゃんみたいに美少女じゃないから、むしろあたしにはお似合いの役だったのかもしれないけど。

…にしても暑い!

馬の体のハリボテの中に、上半身を突っ込んで足だけを出しているんだから、そりゃあ暑いのも当然だけど、とにかく暑いし、なんかクサイ…。

ソレが全身タイツのニオイなのか、馬のハリボテのニオイなのかは分からないけど、とにかくクサイし、あと暑い……。

あ~っ、こんなの早く脱いで、シャワーが浴びたいっ。もう2度と舞台には立たないっ。地味で目立たない裏方のままでいいよっ、とあたしは思った。


でも、どっちにしても中3のあたしにとって、今日は演劇部員としての最後の活動日。たとえ、あたしが望んだとしも、もう中学で舞台に立つなんてことは一生ない。

少し感慨深げに部室に帰ってくると、大きな望遠レンズのついたカメラを首からぶら下げた新聞部員の航平くんがいた。
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