アイ・ミス・ユー
さすがにこの期間は現場である店舗に降りることも少なくて、なるべく事務所にいるようにしているのか、社員から声がけがあるとすぐに対応しているようだ。
これだと私もわざわざ彼を探さずに済むので大助かりだ。
金子に言われた通り、過去3年分の売上表を簡単にグラフにまとめて部門ごとに分けて印刷。
それを彼のデスクまで持っていくと、「ありがとう」と受け取ってくれた。
「やっぱりどちらかというと大型家具よりも小物の方が売上がいいんだね」
ホチキス留めされた資料をパラパラめくりつつ、金子が眉を寄せる。
それに応えるように、私はうなずいた。
「まぁ、どうしても秋の新生活と言っても、春には見劣りしてしまいますし……。実際に新生活始める人もそこまでいるのかどうか微妙ですからね」
「ずっと思ってたけど、新生活フェアっていう名前、変えちゃダメなのかなぁ?オータムフェアとか、オータムセールとか、いくらでもそれらしく言い換えられると思うんだけど」
「私の一存ではなんとも……」
新生活フェアと銘打ったセールまで、あと3日だと言うのに。
今さら名前を変えたいだなんて、それはいくらなんでもまずいだろうと思って困り顔で彼を見つめた。
「折り込みチラシの配布は明日ですし、もう間に合わないと思いますので……」
「そっか。んじゃ上に掛け合ってくる」
「はい…………、って、え!?」
軽快な足取りで椅子から立ち上がって出ていこうとする金子の腕を、思わずグイッと引いて止める。
「ちょっと待ってくださいよ、全店舗で毎年実施してるフェアなんですから!変えられるわけがないでしょう?」
「でも変えたらもっと売れるかもよ?大丈夫だって、酒田部長を通してから上に掛け合うからさ」
「大丈夫なわけないでしょーがっ」
私の最後の痛切なツッコミは爽やかにスルーされ、金子は笑いながら事務所を出ていってしまった。