アイ・ミス・ユー

気になる、気にならない。



━━━━━あれから、1ヶ月が経った。


季節は秋、もしくは冬の入口に差し掛かりつつある。
薄手のカーディガンやジャケットでは寒いくらいの気候になり、クローゼットからトレンチコートとかブルゾンとかを引っ張り出して着るようになった。


この1ヶ月、今野とは仕事以外で口を聞くことが無くなった。
仕事中も、必要最低限。


以前は暇を見つけては「山崎さ〜ん」とか突っかかってきていたのに、今や皆無。
私と目が合おうものならものすごい勢いでそらし、逆に「綾川さ〜ん」と結子の方へ逃げていく。


私以外の人に対しては通常運転のおちゃらけカラオケ男・今野拓を貫いていた。


あれだけ懐いていた後輩がパタリと来なくなったため、さすがに目に付いたのかいつだったか廊下で金子くんに聞かれたのだ。


「今野となんかあった?」

「………………別に?何も無いけど」

「今野が君を避けてるような気がするんだけど。最近事務所でも話してるの見たことないし、前までしょっちゅうオープンにカラオケ誘われてたじゃない」


ボケッとしていて、何も考えていないように見える金子くん。
だけど主任という立場を任されるだけあって、かなり周りに目を配っているのか妙に鋭い。


優しそうな草食っぽい見た目からは想像もつかないような、なかなかの肉食ぶりであることは結子から聞いているので、いくらか強かなところがあるのは分かってはいたけれど。


「なんでいうか〜飼い主に忠実だったワンコが、突然背中を向けてる感じに見えるんだよね」

「私は今野のことなんか飼ってないわよ」

「仲良く頼むよ、仲間なんだからさ」

「は〜い、分かりました、金子主任」


私のイヤミを、金子くんは「あはは」と笑い飛ばして行ってしまった。


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