アイ・ミス・ユー

たまにはドラマチックに。



季節はまだ秋でも、インテリアショップはなんでもかんでも先取りしなくてはならない。
それはファッション業界と似ていて、夏頃から年明けのセールに向けて色々と動き出しているのだ。


たいていのイベントごとは、企画開発部を通して私たち販促部に企画書が持ち込まれる。
ほぼ決定事項の企画書を元にお客様への様々なアプローチを提案するのが私たち販促部の仕事である。


そんなわけで時折、企画開発部の人間がうちの事務所を尋ねてくることがあるのだ。


「樹理ちゃん、お疲れ〜」


馴れ馴れしく私に話しかけてきたのは、同期の企画開発部の三浦洋次郎。


コイツは入社した時から向上心のカケラも無く、ただまったりゆったり仕事をしている欲無し男だ。
以前はよく結子を交えて本店勤務の同期の何人かで飲みに行ったりもしていたけれど、最近はとんとご無沙汰なので洋次郎の近況はサッパリ分からない。


私のことを「樹理ちゃん」と親しげに呼ぶのは、取っつきづらいのを緩和するためだという。
どんだけ私って冷たいイメージなんだ。否定はしないけど。


「企画書?」

「うん。部長も主任も席を外してるみたいだから。樹理ちゃんに預けてもいい?」


うなずいて見せたら、彼は持っていた企画書を私に手渡す。
続けざまに耳打ちされた。


「なぁ、今夜空いてる?」


一瞬警戒しそうになったが、この男には長年付き合っている彼女がいるのは知っていた。
なので特に深い意味は無いだろうと思って「空いてるけど」と答えた。


「飲みのお誘い?」

「ううん、ちょっと話したいことがあってさ。酒抜きがいいんだわ」


あら、珍しい。
意外な返答だった。


< 184 / 196 >

この作品をシェア

pagetop