アイ・ミス・ユー
散らかしてしまった資料をかき集めるべく、しゃがんで素早く書類をまとめる。
健也が立ったままこちらをじっと見下ろすようにして笑っているので、やや口を尖らせて抗議した。
「あの、手伝ってもらえませんか。確かにぶつかった私が悪いですけど、手伝ってもらった方が早く終わります」
「ん?あぁ、そうだな。悪い悪い」
彼は含み笑いを浮かべて、身を屈ませて資料拾いを手伝ってくれた。
何か言いたいことがあるのだけは十分に伝わってきた。
「なんか懐かしいなーって思って。お前のそういう不満げな顔」
「別にそんなつもりはありませんが」
「ねぇ、結。その言葉遣いやめてくれない?すっごい他人行儀じゃん。前みたいに話してくれよ」
「他人ですので」
「冷たーい」
呆れたように目を細める健也の脇腹を、コソッと肘で強めに小突いてやった。
「他の社員に見られたら困ります。軽口叩くのはやめてください」
「おぉ、怖っ。そんなこと言うなよ〜、いろんな姿見せ合った仲じゃんか。なぁ?」
持っていた資料の束で彼の顔面をパンッと叩く。
ブッと一瞬面食らったような顔をした健也は、今度は苦笑いしていた。
「相変わらず素直じゃないんだから」
2人で集めた資料の角をトントンと床で揃えて、彼は「じゃあな」と手を振り軽快な足取りで通路を歩いていってしまった。
「素直じゃない」って、その言葉が私にはこたえるのよ。
可愛くない女だと言われているようで、心が痛むし悲しくなる。
━━━━━小さい頃にお母さんによく言われた言葉を思い出してしまう。
『結子は本当に素直じゃないわねぇ。嫌なものは嫌、欲しいものは欲しいって言いなさい。幹子みたいに素直になりなさい』
別にトラウマになるようなことではない。
両親はそれでも私と妹の幹子を分け隔てなく愛してくれたし可愛がってくれたから。
ただ時々、天真爛漫な妹と比較されたということを思い出してしまうのだ。
私は健也の後ろ姿を眺めながら、小さく深呼吸するのだった。