アイ・ミス・ユー
「お疲れっす、綾川さん」
店舗内のファブリックエリアに大々的に打ち出す予定の「絹のような手触りのラグ」のポップ作りをしていた私は、後ろから声をかけられてパソコンと睨めっこしている顔をそのままぐるんっと振り向かせた。
そこにいたのは、後輩の今野拓。
私が初めて教育係を担当した、ある意味思い出深い男だ。
彼は今現在は販促部のダイニング部門で仕事をしていて、システムキッチンや棚、それからダイニングテーブルなどを中心に取り扱っている。
「どうしたの?なんかあった?」
今野くんの後には、翡翠ちゃんがついている。
彼女の教育係を任せられた今野くんは、飲み込みの悪い翡翠ちゃんに手を焼いて、なおかつ自分の仕事も進まないという悪循環に陥りつつあった。
「来月シリーズで入荷してくるやつの、店舗のディスプレイを一応考えたんです。金子主任に承認もらいたいんですけど、今どこにいます?」
げんなりしたような顔つきで尋ねてくる彼をちょっとだけ不憫に思いながら、チラリと金子の空いているデスクに目を向けた。
「そういえば午後から姿見てないね。一服してサボってるんじゃないの?もしくはどこかで眠りこけてるとか」
「主任、タバコは吸わないって言ってましたよ」
「あ、そう。ごめん、どこに行ったのか分かんないや。聞いてない」
「そうですか〜。承認してもらえないと先に進めないから探してこようかな」
はぁ、とこれみよがしにため息をつかれ、彼の言いたいことを察して腕を組んだ。
「……私は探しに行かないわよ。部長に頼まれた仕事だって今日中にやらなきゃいけないんだし」
「えー、でも綾川さんって主任のサブなんですよね?」
ニコッと明らかに作り笑いする今野くん。
彼の後ろで自然に微笑んでいる翡翠ちゃん。
なんか、ちょっと似ている。
兄妹にさえ見えてくる不思議。