アイ・ミス・ユー


親子がいなくなったのを見届けてから、私はおそるおそる金子に声をかけた。


「主任、金子主任」


一瞬、金子は誰に呼ばれたのか分からなかったようだけれど、私の姿に気づくとすぐに焦った顔になった。
まるで「鬼に見つかった!」とでも言うように。


「主任、困ります。長時間席を外す時はどこへ行くか伝えてくださらないと。みんな探してます」


みんな、というのは真っ赤な嘘だけど。
さらに焦ってしまえ、と少し意地悪してしまった。


「ごめん、すぐ戻ります。…………あ、そうだ」


金子は思い出したように先ほどの若い男性社員の方を振り向いて、ポンと軽く肩を叩いた。


「さっきのクレーム、気にしない方がいいよ。君は間違ってないんだから。でも次同じようなことがあったら、どう対応したらいいか近くの先輩に相談してみて。落ち込むことないよ」

「は、はい。ありがとうございます」


絞られると思っていたらしい彼は、驚きと尊敬が込められた目で金子を見つめていた。


クレーム対応の最後のワンシーンだけを見た私からすると、全くもって話が見えない金子の声がけだった。


ちょっと気になったので、店舗を抜けて上の階の本社へ繋がるエレベーターに乗り込んだところで聞いてみる。


「さっき、どんなクレームだったんですか?」

「大したことじゃないよ。気になる?」


行き先の事務所がある3階を目指して、『3』のパネルをタッチした金子が私を試すように眺めてきた。


「別にそういうわけではありませんが」

「あの男の子がね、展示してるベッドのサイドフレームを鍵で傷つけようとしてたの。それをさっきの彼が注意したんだ。で、男の子がデタラメを吹き込んで母親に泣きついて、うちの子が何をしたって言うんだってクレームつけてきたってわけ」

「…………………………なるほど」


気になるなんて言ってないのに、金子は丁寧に説明してくれた。
言い返すことも出来ず、思わず納得させられてしまった。

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