アイ・ミス・ユー
ベッドコーナーにたどり着くと、すぐに金子を見つけた。
頭の中では完全に彼に対して怒り口調で「主任!こんなところで何してるんですか!」と言っている自分をシミュレーション出来ていたけれど、ただならぬ空気を察して発言するのをやめた。
よくよく見てみると、金子と一緒にいるのは販売部の若い男性社員。
そして2人の向かいには小学生くらいの男の子と、母親らしき女性。
金子たちは2人の親子に頭を下げて、何か謝罪をしているようだった。
足を止めて、邪魔にならないように様子をうかがう。
「……まぁ、そこまで謝られてしまうとこちらも何も言えませんけど。とにかく、もう少し若手の教育をきちんとしていただかないと困ります。不快な気持ちになるので」
母親らしい女性がそう言っているのは聞き取れた。
一体、何をやらかしてしまったのだろう?
私が耳をそばだてていると、金子の声。
「本当に申し訳ありませんでした。徹底した教育をしてまいりますので。いつかまた弊社をご利用いただく際には、このようなことがないように致します」
「その言葉、信じますからね」
「はい、お約束します」
最後の金子の言葉は、かなり力強い印象を受けた。
それは女性も同じだったようで、最終的には少しだけ微笑んでいた。
「あなた、この人のおかげで助かったわね。また来ます」
若い男性社員は恐縮し切った様子で、消え入りそうな声でハイ、と返事を返すだけだった。