君に捧ぐ、一枝の桜花
出会い
ふわりふわりとカーテンが暖かな風に煽られて揺れる。
日差しは柔らかく、白い雲の姿さえ見えない晴天だった。

「今日もいい天気。洗濯がふわふわに乾きそう」

明はいつものように折りたたみ窓を開け、窓辺の椅子に座って外を眺める
。それは明の数少ない日課の1つだった。外に出られない明はこの自分の病室の窓から外の世界を覗くのが好きだった。

「花見をするには絶好の天気だし、お出かけ日和だね。お弁当とかおやつを持って行ったら最高かな」

手が届く距離には満開の桜が今は盛りとばかりに咲き誇っている。下を見れば、病院の裏庭。噴水を囲むように三重、四重に作られた花壇には季節の花が咲き、芝生が青々と茂っている。そこは医師、看護師が行きかい、患者やその親族が穏やかに時間を過ごす場所。今も設けられたベンチで満開の花見をしている患者の姿が見える。

「・・・いいな」

短い言葉には悲しそうな響きが含まれていた。幼少から原因不明の心臓病を患い、実家が経営する病院に入院してきた。心臓病は移植などの手術をすれば完治が可能。だが、明は血液型がボンベイタイプであり、病気自体が原因不明で手術中何が起きるか分からないため行うのは不可能だった。
 治療法が投薬のみの明は行動範囲を病室のみに限られ、日に数種の薬を何度も投薬しなければ死に至る。

「さて、外に出られない僕は楽譜の続きでも書こうかな。まだ未完成だし、今日中に完成させようかな!」

うーんと背筋を伸ばして、席を立つ。それは突如、明の耳に聞こえた。

「お前が防人?」

疑問を含んだ声に明は聞こえてきた窓辺の方を振り返る。

そこには桜木の枝に座る直衣姿の少年の姿。明はゆっくりと目を瞬く。

「・・・君は誰?」

明が返事を返すと、少年は驚いたのか、目を見開いた。


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