君に捧ぐ、一枝の桜花
「す・・きなのにっ!傍にいたの・・に。どうして、私じゃ・・ないの・・っ?」

容姿が瓜二つというのも、璃珠にとっては悲しみに拍車をかける要因だろう。

「お前にも・・きっと、いい者が現れる」

見えない吉野さえ、その場にいるのは辛くそのまま立ち去ろうと踵を返す。

「明ちゃんっ!!」

背後で璃珠の喜びをあげる声が聞こえ、吉野は振り返った。

「明ちゃん、明ちゃん・・っ。良かった!」

喜んで表情を綻ばす璃珠。視線を向けた先―ベッドの中で、明は夢現のような目でぼんやりと天井を見上げていた。

「明ちゃん・・?なんで、泣いているの・・?」

目覚めたばかりの明は目に涙を溢れさせていた。
それは、すーと筋になって伝ってゆく。

「何処か、痛いの!?待って、すぐにお医者様を・・」
「・・夢を・・」

微かに聞こえた声はそう発した。ナースコールを押そうとした璃珠はその手を止め、明の顔を覗き込んだ。

「夢?」
「夢を・・見ていたんだ」

ゆっくりと紡がれる声は何かを噛み締めているように聞こえる。

「とても・・とても幸せな・・長い夢を見ていたんだ」

その左手の薬指には、あの指輪の姿はなかった。

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