君に捧ぐ、一枝の桜花
別れ
その日は、梅雨が明けて分厚い灰色の雲は北へと去り、青々とした今年初の夏空が広がった。吉野は自分の木の枝に器用に座って空を眺めていた。その近くの枝上に袋がちょこんと置いてある。がざがざと音をたてて中身を出すと橙の色が美しい夏蜜柑だった。

「こんなモノを送ってくるなど、何処まであの父は馬鹿なのだ?」

ぽーんぽーんと夏蜜柑を宙に投げて遊ぶ。吉野の父は天界に居て、中々天界に帰って来ない愛息子のために人界の季節にあった品をよく送ってくるのだった。

(たまには持っていくか)

夏蜜柑入りの袋を持って、病院へ向かった。



「おい、入るぞ」

いつものように窓辺から入る。

「・・・・・・・・」

見慣れた部屋は静かだった。ベッドに視線を落とすと、明が安らかな寝顔で眠っている。

「おい・・?」

聞こえるはずの寝息さえ聞こえない。妙に静かすぎる部屋の雰囲気に吉野は焦りを覚えた。布団の上から身体を揺する。

「おい、起きろ」

揺すれども、明はされるがままで起きない。

「遅かったですね」

声が聞こえ、振り返ると窓辺に見知らぬ青年が立っていた。白衣に黒い袴で草鞋を履いている。

「・・・・・死神っ」

その装束は紛れもない死神だった。

「師匠なら、一時間ほど前に死にましたよ」

死神の青年から明へと視線を向ける。

「貴方なら分かるでしょう?もうその身体に魂はなく、ただの肉の器のみ」

死神の仕事は主に人間に悪影響を与える魂を狩ることである。未練もなく、清浄な魂は自分で転生への輪へと戻る。しかし、未練があり、人間に悪影響を与える魂はそれを拒絶するため、死神が狩って強制的に転生へと導く。場合によってはその魂を消滅させる。

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