俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「洸ちゃん。この部屋って一泊おいくら? 5万なんて桁が全然違うよね‥‥今からでもキャンゼッ。いたっ」

羽衣子は焦るあまりに舌がうまく回らず、思い切り噛んでしまった。鋭い痛みにこれが現実であることを思い知らされ、噛んだ舌以上に頭が痛くなりそうだった。

「当日キャンセルは全額客負担。普通、どこもそうだろ」

冷や汗の止まらない羽衣子とは対照的に洸は涼しい顔で言ってのける。

「いくらうちの会社が最近調子いいからって、これはやり過ぎじゃない⁉︎ 思いつきの贅沢にしてはレベルが高すぎるよ〜」

羽衣子からしたらこのホテルの普通の部屋に泊まるのだってかなりの贅沢なのだ。いや、羽衣子じゃなくたって一般的日本人ならみんなそう思うはずだ。

「思いつきの贅沢なんかじゃないよ。
一生に一度のイベントなんだから、これくらいの演出はしたっていいだろ?」

洸は冷蔵庫から取り出したシャンパンをグラスに注ぎ、ひとつを羽衣子に手渡した。

「イベント?」

羽衣子はいい香りのするシャンパンには口をつけずに即座に聞き返した。
洸はゆったりとした動作でひと口シャンパンを口に含むと、グラスをサイドテーブルの上に置いた。ゆっくりと羽衣子に近づくと、スーツの内側のポケットから小さな箱を取り出した。淡い水色の箱に銀色のリボン。羽衣子もよく知るプリュムの包装だ。

「こないだの指輪、完成したんだ。プロポーズを受けるかどうかは別として、この指輪は受け取って。 羽衣子のために作ったものだ。羽衣子にしか似合わないから」

洸は羽衣子の手のひらにその小さな箱をそっと乗せた。小さな箱なのに、羽衣子にはずしりと重く感じられた。
羽衣子はおそるおそる、洸を見上げた。
いつになく真剣な眼差し‥‥プロポーズって‥‥本気、なんだろうか?

「俺と結婚して、羽衣子。好きとか愛してるとか、そういうありきたりの台詞を言うつもりはないけど‥‥俺の人生には羽衣子が必要なんだ。羽衣子がいるから、俺は俺でいられる」

「っ。こ、洸ちゃ‥‥」

洸は羽衣子の左手を取ると薬指に優しいキスを落とした。薬指から全身にじんわりと熱が伝わる。 のぼせてしまったように頭の芯がクラクラする。

「けっ、結婚なんて‥‥そんなこと、急に言われても‥‥考えたこともなかったし。
洸ちゃんは適齢期になったら、さくっとどこかのお嬢様とでも結婚するんだと思ってたし‥‥」

羽衣子のその言葉に洸は不思議そうに首を傾げた。

「羽衣子じゃないなら、俺は一生結婚なんてしないだろうな。羽衣子以外の女はいらない」

洸はぐいっと羽衣子を引き寄せると、鼻先が触れ合うほどに顔を近づける。
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