俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「そう、池袋店の店長とデザイン室の室長にも声をかけて。他は?大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

異動して数ヶ月だけど、川上さんはすっかり秘書室の仕事に慣れたようだった。この美貌だし、やっぱりチーフの後任に最適な人材だと思うんだよなぁ。

「あっ、茅野チーフ。聞いてください!」

「どうしたの?なにかいいことあった?」

川上さんはにんまりと笑ってピースサインを作ってみせた。

「いいこと、ありましたよ〜! 今朝、社長がラウル社の展示会の案内を持ってたんで『そこのお洋服、大好きなんです』って言ってみたんですよ」

ラウル社は高価格帯のブランドを得意とする大手のアパレル会社で、展示会とは次のシーズンの新作のお披露目会のことだ。今の時期なら春夏コレクションだろう。洸は立場上、付き合いのある会社の展示会には必ず顔を出していて羽衣子もよく随行していた。

「そうなんだ。川上さん、あそこの服似合いそうだもんね」

「似合っても、なかなか手が出せないんですけどね〜!じゃなくて、社長がですね、『それなら随行は川上に頼むか』って、おっしゃったんですよ〜〜」


「そっか、よかったね。好きなブランドの服を店頭に並ぶ前に見れるなんて、この業界の特権だもんね」

「も〜。茅野チーフってば、ほんと天然ですね! 服なんてどうでもいいんですよ〜社長と一緒なら、おじさんのゴルフウェアだろうが三枚千円のパンツだろうがなんでも見に行きますよー」

大人っぽい外見とは裏腹に川上さんの中身はまるでアイドル好きの女子高生のようで、なんだか憎めない。今も心底嬉しそうにはしゃぐ姿がとても可愛らしい。

「しかも、場所が表参道なんですよ〜お洒落なお店も多いし、なんとか社長を酔い潰してお持ち帰りできないですかね⁉︎」

「う〜ん、社長はお酒ものすごく強いけど‥‥」

笑いながら川上さんを見送った。嵐が去ったように静かになった社長室で、羽衣子はひとり立ち尽くした。
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