イジワル御曹司と花嫁契約
本当に私のことを大切に思っててくれたんだね。


ねえ、彰貴、私も愛している。


 ゆっくりと、革靴の音が遠ざかっていく。


 行ってしまう。


本当にもう、会えなくなってしまう。


チェーンを外して、ドアノブを掴む。


そして鍵を開けようとして、固まった。


 駄目だ、そんなことしちゃいけない。


開けちゃいけない。


鍵を開けようとしていた手が震え出す。


 行かないで、なんて言う権利ないのに。


息が苦しくて、溢れた涙は止まらなくて、嗚咽が零れそうになる口を両手で必死に押さえた。


 短かったけど、彰貴と一緒に過ごせて良かった。


彰貴に愛されて、私も彰貴を全身全霊で愛して、幸せな時間をほんの僅かでも味わうことができて……良かった。


 出会わなけれな良かったなんて、思わない。


好きにならなければ良かったなんて、絶対思わない。


ありがとう、彰貴。


私を好きになってくれて、ありがとう。


全部、全部、色んなことひっくるめて、ありがとう。


 愛している、今でも死ぬほど愛している。


でも、さようなら……。
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