最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
秘めた想いと急転直下
 そのまま気を抜かずに具合の悪そうな芝居を継続しつつ、部屋に戻って扉をしっかりと閉め合わせ、ふたり同時に大きく息を吐く。

 そして何となく顔を見合わせて、「ふふ……」と肩をすくめて笑い合った。

 子どもの頃、イタズラをして一緒に隠れたときのことを思い出してしまう。懐かしいわ。

「ありがとうエヴル。助かったわ」
「いえ、差し出がましいことをしてしまいました」
「ううん、そんなことない」

 微笑む私に、エヴルも久しぶりに明るい笑顔を返してくれる。
 その笑顔を見た途端に、また私の胸がトクトク騒ぎ出してしまった。

 慌ててエヴルに背を向けて窓辺に近寄り、午後の陽射しに照らされる庭園を眺めた。

 目の前に広がる世界には、完璧に手入れされた庭木や花々が、まるで軍隊のように整然と並んでいる。

 設計通りに流れる人口の川や池には、水草一本も見当たらないほど掃除が行き届いていた。

 自然の法則に反して天高く噴き上げる噴水と、不自然に真っ白な石材で彫られた巨大な彫刻。

 世の人々から称賛されるこの光景は、私が幼い頃から慣れ親しんだ精霊家の屋敷から眺めていた世界とは大違いだ。

「ここからは畑が見えない。牛も、羊も、ニワトリもいない」

「キアラ様……」

「ねえエヴル、覚えてる? 子どもの頃は毎日一緒に遊んだわよね?」

「もちろん覚えておりますとも。キアラ様は私のような孤児の下男にも、とてもお優しくしてくださった」

「あの頃は本当に楽しかった……」
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