最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「それはキアラ様が、精霊家のご令嬢だからですよ?」

 テーラが彼女の性格そのままの、おっとりした口調で答えてくれる。

 おかげで余計に落ち込んだ私は、またまた大きな溜め息をつき、窓の外に広がる美しい庭に視線を流した。

 この世界に数ある王国の中で最も歴史ある国、『ナトゥーラ国』。

 ナトゥーラ国有数の権力者である、このオルレアンス公爵本邸の庭園は、きっちりと刈り込まれた庭木で細かく区切られた広大な庭だ。

 著名な彫刻家の手による優美な裸婦像や、豊かな水が勢いよく噴き上げる巨大噴水や、各地から取り寄せた珍しい花々に、明るい陽射しが讃えるように降り注いでいる。

 国外にも知れ渡るほど有名なこの庭園が、公爵家の持つ計り知れない権力と、財力の豊かさを象徴していた。

 その庭を今朝からひっきりなしに、華美な馬車や、着飾った大勢の人々が行き交っている様子が見える。
 これから間もなく行われる婚約式に参列する貴族たちだろう。

「キアラ様はこの世界にたったひとつの、由緒正しき『精霊家』のご令嬢です。だからキアラ様が次期国王の花嫁となるのに、なにも不足なんてありません」

 テーラが力説する『精霊家』というのは、公爵家とか伯爵家とかの、爵位のひとつ。

 このナトゥーラ王国に伝わる、建国神話に基づく特別な称号でもある。

 どうやらその神話によれば、遥か昔この国において、善なる神と悪しき神との壮絶な戦いがあったらしい。
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