最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「そ、それではご厚意に甘えて、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「そんなへんな言葉をつかわないで、これまで通りにしてくださいってば。……で、なんですか?」

「建国神話は、おとぎ話ではなくて史実なのですか?」

「はい。ずっとずーっとむかしに、おおきな戦いがあったんですよー」

「では、そんな神話の偉大なる英雄様が、なぜ我が精霊家にいらしたのですか?」

「それはキアラさんが、風の精霊『ジン』の末裔だからです」

 なにげなく言われた言葉に、ドキッと胸が騒いだ。
 イフリート様もノーム様も、これまでの笑顔から一転して真面目な表情で私を見つめている。

 ……薄々、そうじゃないかとは思っていた。
 あの中庭に吹き荒れた暴風や、このふたりが本物の精霊であることから導き出される答えは明白だもの。

 私はお腹にグッと力をこめて、覚悟を決めて再び質問した。

「精霊家は本当に、精霊の血を引いていたのですね? 私の祖先のジン様は、いずこにいらっしゃるのですか?」

「ジンはもう、こちらの世界にはいません」

「え?」

「ジンは、あいする人の住む世界に旅だってしまいました」

 ……ジン様の愛する人? 『こちらの世界』ってどういうこと?

 意味がわからず呆気にとられる私に、イフリート様とノーム様が、どこかを遠い所を眺めるような目をしながら説明してくれた。

「じつは建国神話のえいゆうは、わたしたちの他に、もうひとりいたんです」

「もうひとり、いた?」

「うむ。その者は、異世界から訪れた人間の女人なり」

「……は? い、異世界?」

 私は、ふたりから聞いた言葉をオウムみたいに繰り返した。
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