乙女は白馬に乗った王子を待っている

くうぅ、これは何の罰ゲームなんだ!?
なぜ、私は、ここで、この頭の悪そうなチャラチャラした女に遅刻しないように説教しなきゃいけないんだ??
しかも、こっちがお金払ってるんだよ!?

そして、山村月星(るな)は、ゆり子の怒りを理解していないばかりか、
まさに馬の耳に念仏、説教も月星(るな)には全く響いていなかった。

結局、ゆり子は、月星(るな)の通勤ルートを検討するハメになった。
何時何分のバスに乗れば遅刻しないか、きちんと計算をするためだ。どうも、間に合うんじゃね?という楽観的期待による月星(るな)独自の適当な通勤時間設定が、遅刻の原因らしいことを突き止めたからだ。

つーか、バスなんて本数少ないんだから、きちんと時間を把握しろよ!

ゆり子は心のなかであらゆる罵詈雑言を浴びせた。
バスの時刻表とにらめっこしながら、少し余裕をもたせて通勤するためには、今朝の時間よりも30分家を早くでなくてはならない、と言い聞かせる。

「30分も早く出るの!? 無理っしょ。」

「普通の人はみんなやってます。」

ゆり子は、社会人として約束の時間に遅刻しないこと、時間に余裕を持って行動することの重要性を懇々と説明したが、それだけで30分以上経ってしまい、ぐったりした。

それからも、ゆり子は基本的な挨拶の仕方を問答無用で叩き込んだ。
一々直していたらキリがないので、とにかくマニュアル通りに一字一句憶えさせて、反射的に受け付けでふさわしい言葉遣いが出るように教え込んだ。

「こんなこと、ほんとーにやってんのぉ?」

「……やってます。」

「アタシ、そんな堅い会社じゃなくてもいいんだけどぉ。」

「……どんなに柔らかい会社だって、受け付けでは『どのようなご用件でしょうか』って聞くものです!」

「ま、じゃ、憶えてやってもいいけどさー。」

山村はやる気があるのかないのか、分からないような態度で、それもゆり子のイライラを余計に募らせることとなった。

まったくこの山村といい、さやかといい、なんでこうも、自分勝手で世間知らずなんだろう!!




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