雨音の周波数
 長引いた梅雨がやっと明けたというのに、どんよりとした日が続いていた。天気予報では一日曇り。空の感じも雨が降りそうな雰囲気ではなかった。

 今日は期末試験の最終日。午前中で帰れる。そう思って傘を持って行かなかった。

 友達に頼まれて日直を変わった私は、人の居ない校舎から職員室に日誌を提出して帰ろうと思った時だった。外からザーという音が聞こえてきた。

 嘘。雨、降ってきた。

 このとき折り畳み傘を持ってこなかったことを後悔した。とりあえず日誌を提出して、靴箱へ向かった。

「小野」

 靴を履き替えていると、靴箱の陰から石井が顔を出した。

「まだ帰ってなかったの?」
「うん。図書館に寄ってて」
「試験最終日に図書館?」
「借りてた本を返しに行ったの。ついでに下巻も借りてきた」

 スクールバッグから本を出して見せてくれた。それは石井が好きなミステリー小説だった。

「そっか。雨、すごいね」
「だな。あれ、傘は?」
「今日、降らないと思って持ってこなかったんだよね」
「じゃあ、駅まで一緒に帰ろう。俺の傘、大きいから二人ぐらい余裕だし」
「ありがとう」
「どうぞ」と言って、石井が傘を広げる。
「お邪魔します」

 緊張しながら石井の傘に入った。

 傘からバタバタと雨が跳ね返る音が聞こえる。いつもなら映画や漫画の話とかをするのに、今日は二人揃って無言だった。たぶん距離が近すぎるからだ。

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