雨音の周波数
【5】現実の男
 ああ、眠い。

 昨日の圭吾のメールが頭から離れず、あまり眠れなかった。

 しっかりしなくちゃ。今日もラジオがある。その上レーティング期間なんだから。

 いつもより早めに家を出て、少し遠回りをしながら会社に行くことにした。

 さあ、今日のテーマは赤いもの。ポスト、丸より四角が有名です。風船、漂うことが仕事です。マニキュア、僕で絵が書けるなんて知りませんでした。駄目だ。今日の修行は終わり。

 放送作家になってからの日課だ。赤信号で止まる度に行っている。いろいろな言葉がすぐに引き出せるようにするための修行。必ず一つ色を決めて、外で目に留まった物に心情やキャッチコピーを付ける。

 ハイレベルのものが次から次へと浮かんでくることもあれば、低レベルのものしか出てこないこともある。今日は低レベルだ。


 頭を空っぽにして会社に行き、午前中は昨日できなかったものや前倒ししておける仕事を片付けておいた。

 それからラジオ局へ行き、いつも通り生放送の準備をする。

「小野さん、SNS見ました?」

 リスナーからのメールやファックスを確認していると、タブレット端末を片手に夏川さんがやってきた。

「まだ見てないけど」
「見てくださいよ。『to place』関連のコメントに"ラジ恋"のタグを付けている人がたくさんいるんですよ。ほら」

 画面を覗くと確かに"ラジ恋" が溢れていた。

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