雨音の周波数
 圭吾とのことは終わったこと。ただ、終わらせ方がいいものではなかった。私も圭吾以外の人とも恋をした。

 お互いが納得したうえで別れた恋というのは、恋のいい部分だけを、ふとした瞬間に思い出す。相手か自分かが納得せずに別れた恋のほうは、苦い思い出も残ってしまう。圭吾との恋は正にこれだった。だから妙に引っ掛かってしまうのだろう。そんな恋の記憶が現実に現れて、パニックになっただけだ。

 私も来年で三十になる。ドキドキする恋、甘い恋といった感じで恋に夢を持つんじゃなくて、もっと現実を見るべきなんだ。

 母親からは結婚という二文字が気まぐれに降ってくる。今まではのらりくらりとかわしていたけれど、それも年を重ねれば重ねるほど難しくなってくるだろう。

 これは間違っていない。

 サンドイッチを食べ終え、お会計をしてお店を出た。


 会社へ帰る途中、本屋さんに貼ってあった新刊の見出しが目に留まる。

"恋とはなんですか? 愛はどこにありますか?"

 恋とは……、恋とは幻想。愛は現実にある。

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