雨音の周波数
「はい。ここ最近、男性に振り回されてばかりいるので。この男性の中に今日から佐久間さんも含まれますから」
「そう。僕以外の男性は、ラジオ局の前に居たあの彼かな?」
「ノーコメントです。ご想像にお任せします」
「ちょっと意地悪なことを言っちゃったかな。気を悪くしないで」

 佐久間さんはテーブルの中央に置かれている、ガラス製のポットを手にした。二つのガラスのカップにポットのお茶を注ぐ。微かに香る匂いでジャスミン茶だとわかった。

「はい、どうぞ。ここのジャスミン茶は美味しんだ。普通は食後に出されるんだけど、僕は先に出してもらっているんだ」

 透明の耐熱ガラスのカップは装飾がないもので、ジャスミン茶の薄いグリーン色が映えて綺麗だと思った。

 火傷をしないようにゆっくり口に含むと、ジャスミン特有の香りが鼻を抜けた。

「美味しい」
「だろ」
「はい。ここはよく来るんですか?」
「ああ、仕事で使うことがほとんどだよ」

 カップを置き「そうなんですか」と相槌を打った。

「評判いいようだね『to place』のラジ恋」
「はい。思いの外、反響が大きくてびっくりしています」
「中島もびっくりしてたよ。自分が役者をやるとは思わなかった、小野も力つけたなって」
「まだまだですよ」

 ジャスミン茶の香りが漂う部屋に、野菜の美味しそうな香りが混ざり込んできた。

「お待たせいたしました」

 さっき私を案内してくれた店員さんがエビチリ、トマトの卵炒め、ワンタンスープをテーブルに並べた。

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