雨音の周波数
 ドアを開けると男性の店員さんが近寄ってきた。

「いらっしゃいませ」
「予約した大倉です」
「お待ちしておりました。お連れ様がお待ちです。こちらへどうぞ」

 大倉さんはもう来てるんだ。

 店員さんの後について歩く。白いテーブルクロスの掛かった席をいくつも通り過ぎ、個室へと案内された。

 そこにはなぜか佐久間さんがいた。私が呆然と立ち尽くし、店員さんは会釈をして出て行ってしまう。

「どういうことですか?」
「とりあえず座りなさい」

 立っていても仕方がない。言われた通りに座った。

 佐久間さんはラジオ局での会議が詰まっていて、今日は一度も会うことはなかった。

「座りました。説明してください」
「驚かせてごめんね。小野の見合い相手は僕だよ」
「えっ? 大倉さんですよね」
「それは嘘」

 話が全く見えない。なんで私と佐久間さんがお見合いを? いやその前に、ここまで手の込んだことをしてまでお見合いを?

「ゆっくり話そう。ここは僕の奢りだから。ここで二番目に高いコースを頼んでおいたよ」
「奮発してくださりありがとうございます」

 わざと嫌みのように言ってみる。佐久間さんは楽しそうに微笑んでいる。

 ああ、男って訳がわからない。

「随分と機嫌が悪いんだね」

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