雨音の周波数
【7】真実の手前
〈今日も楽しく拝聴しました。
 なかなか明けませんね、梅雨。ジメジメとした日が続きますね。そんな不快感も悪くないと思わせるような雨歌特集がとてもよかったです。
 午後の仕事も頑張ろうという気分になりました。ありがとうございます。

 また聴きます。今日も一日お疲れ様でした。

 匿名希望 東京都 石井 圭吾〉


 圭吾からのメールが変わらずに届いている。あの日以来、圭吾が私の前に姿を現してはいない。自分勝手な勘だけど、圭吾にはもう会わないような気がしていた。

 佐久間さんとはいつも通り仕事をしている。お見合いの返事をまだしていない。待たしている人間より待たされている人間のほうが、時間は長く感じる。それをわかっていて待たすのは悪いとは思う。でも、どうしても踏み切れないのだ。


 じめじめとした梅雨が明け、本格的に夏が始まった。

 いつも通り『to place』の生放送後、明日の放送分の打ち合わせを終えて、ラジオ局を出たときだった。

「春香」

 圭吾がいた。私の勘は外れてしまった。

「春香。話がしたい」
「ごめん、私」
「頼む。三十分でいいんだ」

 懇願する眼差しを振り切ることができなかった。私の中で小さく引っ掛かった恋を消す、いい機会になるように思えたからだ。今まではなるべく考えないようにしていた。それも終わらせたい。

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