雨音の周波数
「わかった。近くのファミレスにでも入る?」
「そうだね。ここの通りにカフェがあったよね。そこでもいいかな?」
「そうね」

 私と圭吾はカフェまで無言で歩いた。目的のカフェに入り、お互いアイスコーヒーを頼んだ。

 木目を基調とした店内にはサラリーマンやOLが多かった。

 アイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れ、ストローでかき混ぜる圭吾。コーヒーを苦手だと言っていたのに、それを普通に飲んでいる圭吾。スーツを着ている圭吾。知らない圭吾が目の前にいる。

「高校の頃の夢、叶えたんだな」
「うん。放送作家をやってる。圭吾はどんな仕事してるの?」
「俺は秘書をやってるんだ」
「そうなんだ」

 真面目な性格の圭吾には向いている職業だなと思った。

「俺、ずっと春香に聞きたいことがあった。どうしてなにも言わずに引っ越して、連絡先を変えたんだ?」

 圭吾から視線を感じるのに、私は一度も圭吾の顔を見ることができない。視線を上げてもネクタイの結び目辺りで止まってしまう。

「高校の夏、春香がいなくなってショックだった。なにが起きたのかわからなくて、春香の友達に聞いてもうまくはぐらかされるし。春香にとって俺はどんな存在だったんだろうって」
「どんな存在? 大事な彼氏だったよ」
「じゃあ、なんで?」
「圭吾は? あのときの圭吾にとって私はどういう存在だったの」

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