雨音の周波数
 よかった、楽しんでもらえて。どんなに凹んでも、リスナーから「面白かった」という言葉で全てが報われる。だから私は放送作家を続けられるんだ。

 また次のメールを手に取った。

〈ラジオドラマすごく面白かったです。休日に仕事が入ってしまい、帰りの車の中で聴きました。主人公の女性がどことなく高校の頃に付き合っていた子に似ていて、懐かしい気持ちになりました〉

 へえ、男性からの感想もうれしいな。

 感想の最後に書かれている名前を見て動けなくなった。

"石井 圭吾"

 その名前は初めて付き合った彼と同じ名前だった。

 もう一度、感想を読み返した。高校の頃に付き合っていた子に似ている。このラジオドラマに出てくるような女はたくさんいる。これで"あの圭吾"だと思うのは安易すぎる。

 一番上から順に視線を下げていく。そしてアドレスを見た瞬間、やっぱり圭吾かもしれないと思った。

 ドメインでフリーアドレスではなく携帯電話だとわかった。あのころとは違うドメイン。携帯のキャリアを変えたのだろう。そしてアットマーク前のローカルパートをもう一度見返す。

 間違えない。この人と結婚するなんて単純に思えてしまうような恋を彼としていたときに、お揃いにしていたアドレス。"0422xkeigo"だった。

 彼はスタッフロールで私の名前を聴いてメールしてきたのだろうか。それとも純粋に感想を送りたかったのだろうか。それならわざわざご丁寧に本名を書く必要はない。ラジオ宛のメールは特別な理由がない限り、ラジオネームを使う人がほとんどだ。

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