あなたを守りたい
接近
 シャッ。
 
 う、まぶしい。
 明るくなった方に目をやると、窓の傍に彼女が立っていた。

「おはよう」
「おはようございます」
「ごめんね。ソファー、狭かったでしょう?」

 そうだった。
 僕はここに泊まったんだ。
 寝られないなんて心配は無用だった。
 僕は一度も目を覚ます事無く眠っていた。

「大した物は作れないけど、朝ごはん食べて行って」
「折角ですけど、これから一旦アパートに戻ってシャワー浴びたいので失礼します」
「それじゃ、せめてコーヒーだけでも」
「頂きます」

 無碍に断ってもいけない気がして、コーヒーだけご馳走になる事にした。
 出社まであと2時間。
 まだ余裕はある。

「今日は休んだ方がいいんじゃありませんか?」
「ううん、大丈夫。それに、仕事してた方が気が紛れるし」
「それもそうですね。でも、無理しないで下さいね」
「ありがとう」
「準備出来たら迎えに来ましょうか?」
「いいわ。明るいし、大丈夫。1人で行けるから」
「わかりました」

 僕はコーヒーのお礼を言うと、家に向かって歩き出した。
 明るい時間に自分の家に向かって歩くのは何だか妙な感じだ。
 
 鍵を開けると、閉めっぱなしの室内から生ゴミの匂いがした。
 夕べ帰らなかったので、朝使った食器がそのままだ。
 それから、三角コーナーの生ゴミも。

 僕は窓を全開にすると、空気の入れ替えをした。
 その間に急いでシャワーを浴びる。

 家を出たのは、それから30分後だった。
 念の為、彼女の家のチャイムを鳴らす。
 応答は無かった。

 僕は坂道を下ると、バス停に向かった。
 そこにも彼女の姿は無い。
 1本前のバスに間に合ったのだろう。
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