ニクセ
「そうですか、理由は分かりました。兎に角時間がなさそうなので明日には用意しましょう」
聞いてきたわりにさほど興味がないようで、アッサリした環は胸ポケットから携帯を取り出し私にそれを差し出してきた。
「用意ができたら連絡をしたいので番号を教えてください」
案外こんなにアッサリ決まるものなのかと不安になりながら環に番号を教えた。
明日には必ず用意することを約束してくれた。
借りた分の返済については明日でいいという。
コーヒーがまだ残ってるけど雨が止んでる今、ここを出ないとタイミングをなくしそう。
伝票を持って立ち上がると環はそれを制して、手から抜き取られた。
「ここは僕が」
「けど、」
「今日は気分がいいんです。ラッキーとでも思っといてください」
譲るつもりはないらしい。
きっと私が引かない限りずっと平行線な状態を見越して、環の言葉に甘えることにした。
お礼を言って頭を下げ、席を離れようと足を踏み出した時。
「赤い傘、忘れないように」
親切に教えてくれた環にもう一度頭を下げ、その場を後にした。
出口のドアの前にある傘置き場で自分の傘を持って、そこで初めて違和感に気づく。