森の奥のとある魔導師達の話。
森奥。
濃紺にとっぷりと覆われた夜空には光ることを止めぬ星々散らばっていた。

しかしそんな美しい星空の真下で起こっている出来事は、あまりにも空とは不釣り合いであった。

耳を澄まさずとも聞こえるのは、人々の怒声、罵声。

そして同じ名称で呼ばれる者共の、泣き叫ぶ声。

そんな状況の中に、顔を長めの布で隠しながら人混みを走り抜ける少女の姿があった。


*


ハアッ、ハアッと、自分の息が強く肺から直接上へと送られてくる。

それはとても苦しいもので、普段から運動をしておけば良かったと今更ながらに後悔する。

ソレと同時に、心も酷く苦しかった。

何故。どうして。

それだけだった。

「魔導師だ!」

「捕まえろ!!」

後ろからは怒号を上げながら追いかけてくる足音が幾つも聞こえた。

一体私達が何をしたと言うのだろうか。

ここ最近は酷く冷え込み、私は勿論、人々から吐き出される息が白く見える。

そのせいだ。

走る私の目の前に、氷となった水が夜の星を反射して輝いていた。

滑って足を取られた。

体が前に大きく傾き、私は__


*


「...ナ。...オナ...フィオナ・レイ!!」

ばちっと勢いよく瞼を開けると、視界に広がるのはいつもの天井。

私の肩に手を置いている彼は、ルーク・プラウスだ。

ルークは訳あって共に同じ家で住まう者であり、魔導師である。そして私も同じく魔導師だ。

そんな彼は、少し落ち着きのある色味をした細く柔らかい金髪に、

信念を感じる、何処までも透明感のある碧色の瞳。

鼻と耳も形が良く、肌は雪の様に白い。

整った顔立ちであると、誰もが口を揃えて言うであろう。

私がまじまじと彼の顔を見つめていれば、彼は眉をひそめた。

「...何見てんだよ、気持ち悪いな。
それにお前、またうなされてたぞ?何か変な夢でも見たのか?」

言葉使いが荒いと指摘すれば頭にうるせえと小言付きでチョップを喰らわせられた。

私は頭を擦りながら先程の夢を思い出そうとするが、

全くと言って良いほど思い出すことが出来なかった。

「...覚えてないや」

私がそう言うと、ルークはへらりと笑い、そーかよ、と言った。

「早く下に降りてこいよ、朝飯出来るってエリーザが言ってた」

ルークは私の部屋を出る前にそう伝えてから出ていった。

さて、今日の始まりだ。
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