溺れる恋は藁をも掴む
 「気に入らないなら、さっさと出て行け!!
今すぐ出て行け!!

 離婚したって、性格の不一致って事で、お前に支払う慰謝料なんてないからな!
せいぜい、二人のガキの養育費くらいだ。

 自分で生活していけるもんなら、やってみろ!!」


 母さんは下唇を噛み締め、上目遣いになった。
怒りを堪えるかの様に、唇がプルプルと震え出す。


 その姿を見ながらも、更に追い討ちをかける様に吠える親父。


 真っ赤になって、自分の言い分が正しいとばかりに理屈を並べて、母さんを罵倒する。


 顔を顰めたくなるほど、親父は醜い。


 母さんはそんな親父に抵抗する事さえ、もう、諦めてしまってる。



 ウザい親父は、一言返したら、10倍以上に返して、母さんの心をナイフで切り刻み、抉ってゆくからだ。


 早く、この地獄が終わりますように‥‥
5つ歳下の弟の柊(しゅう)を抱きしめながら祈る。

 「大丈夫だよ。
お兄ちゃんが居るだろ?」

 何も分からない柊が、これ以上怖がらない様に声を掛けた。


 小さな柊は、火がついたように泣き叫ぶ。

 まるで、この地獄を泣いて止めようとしているかのように‥‥
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